糖尿病網膜症とは
糖尿病は、血液中に含まれるブドウ糖の濃度が慢性的に高くなる病気です。健康な人の場合、食事などで摂取したブドウ糖がきちんと細胞に取り込まれていき、エネルギー源として活用されます。これに対し、糖尿病の患者さまはブドウ糖をうまく取り込めないため、血液中でダブつくようになります。この病気の発症には、膵臓でつくられるホルモンの一種インスリンが関係しています。具体的には、インスリンを作成する膵臓のβ細胞が主に自己免疫反応の異常によって破壊されてほぼ分泌されなくなるタイプと、日頃からの不摂生な生活習慣によって膵臓が疲弊することでインスリンの分泌不足や効きが悪くなるといった状態になるタイプがあります。前者は「1型糖尿病」、後者は「2型糖尿病」と呼ばれます。日本人の場合は、圧倒的に2型糖尿病の患者さまが多くなっています。
糖尿病網膜症について
糖尿病網膜症は、糖尿病の発症がきっかけとなって起きる合併症のひとつです。糖尿病の状態が長く続くと、患者さまは様々な合併症を併発するのですが、その中でも糖尿病網膜症は、糖尿病神経障害、糖尿病腎症とともに「糖尿病三大合併症」と呼ばれています。
なお、糖尿病網膜症になっても、初期の段階ではほとんど自覚症状がみられません。しかし、血管内にブドウ糖がダブつくことで血管内皮が常に損傷を受け続けている状態となっているので、徐々に症状が強まります。具体的には、網膜の血管が詰まる、眼底出血が起きる、景色がぼやけて見える、飛蚊症、視力低下などの症状が現れます。それでも放置が続けば失明する可能性もあります。そのため、糖尿病と診断された患者さまは、これといった眼症状がなくても定型的に眼科で検査を受けるようにしてください。
このようなときは糖尿病網膜症の可能性があります
- 視界がかすんで見える
- 視野の一部分が欠けている
- 目の前をホコリのようなものがチラつく
- 目の前にカーテンがかけられたように黒く見える
- 目の奥の方が痛い
- 視力が急激に低下してきた
糖尿病網膜症の治療
糖尿病網膜症は、その病状の進み具合によって、単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症の3段階に分類されます。このうち単純糖尿病網膜症は、網膜症の初期段階であり、小さな眼底出血や白斑などの症状が見られますが、自覚症状はありません。網膜などへの影響も限定的なので、積極的な治療は行いません。ただし、病状の進行状況を確認する必要があるので、概ね3ヵ月に1回の割合で受診するようにしてください。
増殖前糖尿病網膜症は、網膜症の中期の段階であり、小さな眼底出血、網膜における血流の悪化などが起こっています。視力は低下していないことも多いのですが、放置すると増殖糖尿病網膜症に進行しやすいため、必要に応じて網膜光凝固術などのレーザー治療を検討します。患者さまによっては、抗VEGF療法も行います。
増殖糖尿病網膜症は、網膜症の進行期であり、硝子体出血、増殖膜の発生などが起こります。これに伴い、血管新生緑内障や牽引性網膜剥離など、様々な病態が引き起こされます。治療に関していうと、レーザー治療で対応することもありますが、それでも進行を阻止できないような場合は、硝子体手術が必要になります。
